仮想通貨の「追跡調査」とは、ブロックチェーン上に残された取引記録をたどり、送金された資金がどこへ流れていったのかを追う調査のことです。「一度送ってしまったら、もう行方は分からない」——そう思われがちですが、実際には多くの仮想通貨で、すべての取引が公開された記録として残っています。専門的な手法を使えば、その流れを追える余地があります。
もちろん、追跡は「必ず成功する」ものではありません。ただ、仕組みを正しく知ることは、これから何ができるのかを冷静に考える助けになります。この記事では次の4点を順番に解説します。①なぜ仮想通貨は追跡できるのか。②どんな手法が使われるのか。③何が分かって何が限界なのか。④依頼するとどう進むのか。

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なぜ仮想通貨は追跡できるのか

結論から言うと、多くの仮想通貨は「公開された台帳」にすべての取引が記録される仕組みになっているため、原理的には資金の流れを追えます。銀行の口座履歴は本人と銀行しか見られませんが、仮想通貨の取引記録は、誰でも閲覧できる形で残っている——ここが大きな違いです。
ブロックチェーン=公開・改ざんが難しい台帳
ブロックチェーンとは、たくさんの参加者が同じ「台帳(取引の記録帳)」を共有し合う技術です。特定の管理者が一つの帳簿を握るのではなく、ネットワークの参加者全員が同じ記録を持ち合うことで成り立っています(出典:日本銀行ワーキングペーパー)。
この台帳には、「どのアドレスから、どのアドレスへ、いくら送られたか」という取引が、時系列でずっと積み重なっていきます。一つひとつの取引にはTXID(トランザクションID=取引ごとの固有の番号)が振られ、送金元・送金先はウォレットアドレス(口座番号のような文字列)で表されます。これらは公開されているため、番号をたどれば「その資金が次にどこへ動いたか」を確認できます。
さらにブロックチェーンは、暗号技術によって記録の書き換えが非常に難しく設計されています。過去の記録を後から改ざんしようとしても、ネットワーク全体の整合性が崩れてしまうため、事実上ほぼ不可能とされています(出典:日本銀行ワーキングペーパー)。「消せない・書き換えにくい記録が、公開されている」——これこそが、追跡調査を可能にしている土台です。
追跡調査で使われる主な手法

公開されているとはいえ、膨大な取引記録をただ眺めるだけで資金を追えるわけではありません。実際の追跡調査では、記録を体系的に分析し、資金の流れを可視化するための専門的な手法が使われます。代表的なものを見ていきます。
オンチェーン分析・ウォレットクラスタリング
オンチェーン分析とは、ブロックチェーン(オンチェーン=台帳上)に記録されたデータを分析し、資金の経路を明らかにする手法です。専用の分析ツールを使うと、あるアドレスから出た資金がどのアドレスを経由して最終的にどこへ渡ったのかを、図として可視化できます。
その中核となる考え方の一つがウォレットクラスタリングです。詐欺の加害者は、足取りをぼかすために複数のウォレットアドレスを使い分けることがよくあります。クラスタリングは、取引の特徴から「これらのアドレスは同じ人物・同じ主体が使っている可能性が高い」というまとまり(クラスタ)を推定し、束ねていく手法です。バラバラに見えるアドレス群を一つのかたまりとして捉え直すことで、資金の全体像が浮かび上がります。
さらに、束ねたクラスタが取引所などの「エンティティ(実体のあるサービス)」につながっているかを確認していきます。資金が規制対象の取引所に入った地点まで追えれば、その先の手続きの重要な手がかりになります。
▶ オンチェーン分析の具体的な仕組みは、関連記事「オンチェーン分析とは|資金の流れを可視化する技術」で詳しく解説しています。
ミキシングやチェーンホッピングで隠された資金の追跡
加害者は、資金の出所を分かりにくくするために、いくつかの「隠す技術」を使うことがあります。追跡調査では、これらを踏まえたうえで流れを追っていきます。
- ミキシング(コインミキサー):複数の人の資金を一度混ぜ合わせ、出所と行き先の対応を分かりにくくするサービス。トルネードキャッシュなどが知られている。
- チェーンホッピング:ある仮想通貨から別の仮想通貨へ、ブリッジ(チェーン間を橋渡しする仕組み)を使って資金を移し替え、追跡を断ち切ろうとする手口。
- ピールチェーン:一つのウォレットから少額ずつ何度も送金を繰り返し、資金を薄く分散させていく手口。
これらが使われると、追跡の難易度は上がります。ただし、「隠された=もう追えない」とは限りません。専門の分析では、送金のパターンやタイミング・経由した中間ウォレットの特徴などを手がかりに混ぜられた先やブリッジした先を推定し、たどり直せる余地があります。実際、加害者が複数のアドレスを使って高速に資金を動かしても、分析ツールを使えば対抗できる場合があると指摘されています(出典:Chainalysis)。同社は、詐欺グループの側も追跡可能性を認識し始めているとして、「詐欺業者は暗号資産の追跡可能性にも精通しつつあり」と述べています(出典:Chainalysis「2024年の暗号資産詐欺」(日本語版))。
みらいは、こうした「隠された資金をどう追うか」という実践的な追跡を専門にしています。多くの解説が「困難」で終わるところから、もう一歩踏み込んで追える可能性を探るのが役割です(※ただし、すべてのケースで追い切れるとお約束はできません)。
専門機関の見解:「追跡は可能」だが「個人の特定には限界」
追跡調査を語るうえで大切なのは、可能性と限界の両面を正しく押さえることです。
一方でブロックチェーン分析を手がける専門企業のChainalysisは、盗まれた仮想通貨であってもミキサー・ブリッジ・仲介業者を経て現金化される地点(オフランプ)まで資金を追跡できるとしています。加えて、盗まれた資金は急速に移動するため、早く動くほど追跡しやすい=スピードが重要だと強調しています(出典:Chainalysis)。
他方で、公的な議論では限界も指摘されています。金融庁の審議会の報告ではブロックチェーン上に取引は記録されるものの、匿名性が保たれ、国境を越えてリアルタイムで資金が移転しうる点が課題として挙げられています(出典:金融庁 金融審議会)。つまり「資金がどのアドレスへ動いたか」は追えても、「そのアドレスの持ち主が現実の誰なのか」を突き止めることには、また別の難しさがあるということです。
追跡調査でわかること・その限界

結論から言えば、追跡調査で分かるのは主に「資金がどこへ流れ、最終的にどこへ到達したか」です。一方で、「口座の持ち主の実名」「即座に現金化された資金の先」「海外を経由した資金」には、越えにくい壁があります。誠実にお伝えすると、追跡は必ず成功するものではありません。
わかること/現金化・海外という壁
わかることは、資金の経路と最終到達先です。送金元のアドレスから始めて、どのウォレットを経由し最後にどの取引所やサービスに入ったのか——その流れを記録に基づいて追える可能性があります。到達先が判明すれば、その後の手続きにおける重要な材料になります。
一方で、次のような壁があります。
- 個人の特定:アドレスが分かっても、それが現実の「誰」かは台帳には書かれていない。匿名性が保たれているため、実名にたどり着くには別のプロセスが必要(出典:金融庁 金融審議会)。
- 即座の現金化:資金がすぐに現金や別の資産へ換えられてしまうと、その先の足取りは追いにくくなる。だからこそスピードが重要(出典:Chainalysis)。
- 海外の壁:資金が海外の取引所などに渡ると、国境をまたぐため、情報開示のハードルが高くなる。
こうした事情から、公的機関も「被害回復は容易ではない」と注意を促しています(出典:金融庁)。それでも、追える範囲を明らかにすること自体が、次の一手につながります。

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追跡調査は誰が・何のために使うのか

追跡調査は、資金の流れを解明する必要がある立場の人々に使われています。代表的なのは犯罪捜査を行う法執行機関・資金洗浄への対策を求められる金融機関・そして詐欺被害の調査を担う調査会社などです。仮想通貨詐欺の文脈では、「被害者が送ってしまった資金の行き先を特定する」用途で用いられます。
詐欺被害の送金先を特定するという用途
仮想通貨詐欺の被害では、追跡調査は「送金先・最終到達先の特定」のために使われます。被害者が加害者へ送ってしまった資金が、その後どのアドレスをたどり、どこへ到達したのか。これを明らかにし、調査報告書としてまとめるのが、私たちのような調査会社の役割です。
ここで大切な区別があります。調査会社が担うのは「特定」と「報告書の作成」までです。そこから先の返金請求や示談交渉、被害届の提出といった手続きは、弁護士・認定司法書士・警察が行うものです。追跡調査は、そうした専門家や捜査機関につなぐための「入口」であり、確かな材料を用意する工程だとお考えください。
「自分のケースでも送金先を追えるのか?」——気になる方は、関連記事で詳しく解説しています。
▶ あなたのケースは特定できるのか|「特定は可能か」を詳しく
追跡調査を依頼するとどう進むのか

追跡調査は、思いつきで資金を追うのではなく、決まった手順に沿って進みます。おおまかには「相談 → 一次調査 → 分析 → 報告書」という流れです。
相談から報告書までの流れ
| 段階 | 何をするか |
|---|---|
| ①ご相談(無料) | 被害の状況・送金した日時・TXID(取引番号)・送金先のウォレットアドレスなどを共有いただく。 |
| ②一次調査 | いただいた情報をもとに、資金を追える見込みがあるかを確認する。 |
| ③分析 | オンチェーン分析などの手法で、資金の経路と最終到達先を追跡する。 |
| ④報告書の作成 | 調査結果を報告書としてまとめる。弁護士や警察へ相談する際の材料としてお使いいただける。 |
この流れの中で、調査会社が行うのはあくまで「資金の流れを追い、結果を報告書にまとめる」ところまでです。実際に追跡がどこまで可能かは、送金先の状況やスピードによって一件ごとに変わります。「自分のケースは追えるのか」という具体的な見込みについては、次の記事で詳しく説明しています。
関連記事
- あなたのケースは追跡できる? ▶ 特定は可能か
- ビットコインの追跡について詳しく ▶ ビットコイン追跡とは
- 分析手法をもっと知りたい ▶ オンチェーン分析とは
ご相談について
仮想通貨詐欺の被害で、送金先の追跡が必要な方は、一度ご相談ください。相談は無料です。「必ず取り戻せます」といった誇大なお約束はいたしませんが、追える可能性があるかどうかを、一緒に確認します。資金は時間とともに動いてしまうため、お早めのご相談をおすすめします。
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出典・参考
- 日本銀行|(論文)ブロックチェーン・分散型台帳技術の法と経済学(ワーキングペーパーシリーズ No.17-J-1) https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/wp17j01.htm
- Chainalysis|How Chainalysis Supports Crypto Investigations https://www.chainalysis.com/blog/how-chainalysis-crypto-investigations-supports-cases/
- Chainalysis|The 2026 Crypto Crime Report https://www.chainalysis.com/reports/crypto-crime-2026/
- 金融庁|金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告(2025年12月10日) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20251210/01.pdf
- 金融庁|「FX取引・暗号資産投資の勧誘」にご注意!! https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/husyouseikanyuu.html
- 金融庁|「金融庁職員」等を装った詐欺等にご注意ください!! https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/kinyuuchousyokuinntou.html
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